得意科目は歴史。 暗記科目は 基本的に好きだ。 しかし 今回は訳が違う。 【 love・story ―2―】 文字の羅列を追うようになって早三日。大分頭に入ってきた台詞。 しかし理解するのは難しく、崇は“理由づけ”に苦労していた。 「………」 まともに訂正の入った台本に胸を撫で下ろしたのが四日前。 空白の一日はあの小悪魔たちの手掛けた力作に触れるのが怖くて過ぎた時間。 しかし翌日救生主から 「最後のチェックは自分がやったので変なところは全てカットしましたから」 その言葉を聞いてやっと手にすることができたのだ。 しかし 「…………」 普段自分が無口なだけに、この環むきな台詞たちは恥ずかしいものがある。 環の場合天然ホストであるため考えたこともなかったし、 このような童話の王子様は物語りであるため気にしたこともなかった。 が 何故こんな短期間で愛だの結婚などと話しが進むのか理解しがたい。 しかもわざわざ比喩を使って例えなくとも 『好きです。結婚してください』でいいではないか。 「……いや、それはそれで…」 考えてみて、あまりストレートすぎるのもどうかと思い返す。 結論的には崇自身の性格は王子様にはほど遠い。 自室のベッドに大きく横になりながら目を閉じ頭の中に“王子”である自分を思い浮かべてみる。 「…“この靴がぴたりと合う女性を探し出せ”…」 「…“何? まだ見つからないのか。もういいならば私が探しに行こう”…」 ポツリポツリ声にも出してはみるがしっくりくるわけがない。 どこかたどたどしく、以前のハルヒの演技を大根呼ばわりできないほどだ。 しかも自分の苦手とするのはこういった台詞ではない。 もっとこう…… 「…“私はようやく気が付いたんだ。私は一目見たときから彼女を…”……」 彼女を…? はぁと隣で伏せられていた台本を手にとる。 続きの台詞は 『欲しいと思ったんだ』 流石双子と言ったところか。 ただでさえ恥ずかしい言葉であるのに、表現が何やら引っかかる。 しかも崇がその愛を囁くシンデレラと言えば… 「たーかし! 練習すすんでるぅ?」 間違いなく自分の想い人である。 ノックもせずに入ってきたかと思うと光邦はそのまま崇めがけてベッドにダイブした。 「ちゃあんと台詞は覚えまして? 王子様?」 満面の笑みで見下ろしてくるシンデレラにあからさまな溜め息を吐いてやる。 「……大方な」 「だめだよぉ、たかし!」 ぷぅと頬を命一杯膨らました姿はハムスターみたいで愛くるしい。 「ちゃんと、王子様しなきゃ!」 そう言って崇の腕を引いてベッドに座らせると、「お手本ね」とひざまづく形になった光邦のスイッチは切り替わり、 その表情は男のものとなる。 「どうかそのように晴れないお顔はお止めください。どうか、僕のためにも笑っていただけませんか? 姫?」 掌にキスを落として、最後はいつもの愛嬌満点の光邦でウインクを一つ。 「どーお? 今、かっこいいなぁって思っちゃったでしょ!」 「……ああ」 「ふふふ、何で判ったかって?」 「お顔が真っ赤でしてよ? 王子様?」 その言葉が崇に届くころには唇は塞がれていた。 触れるだけなのに、妙に熱い。 「もー、これじゃあどっちが王子様かわかんないよぉ!」 「……そもそも無茶だ」 崇の性格を熟知している光邦は「まぁねぇ」と返した。 「でも、滅多にないチャンスだもんねー」 「?」 「だぁって…」 崇のベッドにコロンと横になるとそのまま覗き込む形になる。 「たまには“崇から”って言うのも、なんかいいじゃん」 「………」 日常生活。 崇は光邦の愛を一身に受けている。 光邦は「大好きだよ」「愛してる」と囁き、甘い時間に幾度となく誘う。 あるときは一緒にお風呂に入り、あるときは同じベッドで眠り、 あるときは実力行使にまで出ようとしたが、シャイなお姫様は全力で逃げてしまうのだ。 だからせめて、 「だって僕、崇からの“愛してる”そんなに聞かないし」 どこか物悲しげに言うと、 「言う必要はない」 凛と言い放たれる言葉。 光邦にとって”案の定”な台詞だった。 「わかりきっていることを改めて言うこともないかと」 「………」 「それに今回のは台詞だ、変えようはないろう?」 「………………」 「…………光邦?」 言葉が突き刺さる。 しかし、これもまた光邦は理解してしまっているのだ。 悪気がないことに。 ただ、抵抗があるだけなのだ、と。 しかし 「光くっ?!」 無意識でも傷つくものは変わりないでしょ? 乱暴に唇と奪うと口内を思いっきり犯してやる。 ねっとりと絡み合う舌。 最近やっと勝ち取ったキス権。 といっても半ば無理やり奪ったにも等しいものであったが、 まだ数えるほどしか体験したことのない深い口付けに崇は息が上がる。 離れるとそれは糸を引き、涙目になった恋人は肩で息をして自分を誘う。 無意識に。 「…っ、はぁっ、光邦!」 「はいはい、ごめんなさーい!」 浮かんだ涙を乱暴に拭うとキッと厳しい制止の声。 その顔は真っ赤でなんともまぁ可愛らしい。 「とにかく!」 仕切りなおしに光邦は後ろから崇の首に腕を回して 「頑張って私を落してね? 王子様」 頬に柔らかで優しいキスを落すと 崇は頬を仄かに染め、思った。 頑張ろう、と。 Next →→→ Now Nothing... 崇のガードが堅いというお話でした。なのでこのお話しでは光邦さんはまだ崇に手を出してはおりません(笑) のんびりカップルということで。 07.10/3 |