いつもそばにいて
  いつも優しく微笑んでくれて



  いつも名前を呼んでくれる


  

  でも……










 「光邦」
  そう呼ばれてはっと意識は今いる場所へと引き戻された。
 「…どうした?」
 「ううん、何でもないよ」
  白い胴衣を身に付けた崇を見て道場での稽古中であることを思い出した。
  夕食前の稽古は毎日崇と共に行っている、幼いころからの日課。
  しかしこのところ光邦にとってあまり意味をなしていない。




 「光邦」
  長身を屈めて崇が光邦を覗き込む。
  その目には明らかに「心配」の色があって
 「大丈夫だよ」
  そう優しく言ってやると軽い溜め息を吐いて、やんわりと微笑んだ。
  いつも周りから無表情だと言われる、整った顔。
  しかし実際、小さくではあるがちゃんと反応しているのを一番理解しているのは
  光邦で、それに気付けることがささやかながら嬉しかったり。





 「崇」




  軽く名前を呼んで、胴衣を引っ張って引き寄せる。
  そのまま軽く唇で唇に触れてやる。
  距離を取った光邦を崇はきょとんと見下ろした。





    何が起こったのかわかってないね。





 「光…」
 「キスしたの」
 

  呼ばれそうになった名前を先にした行為を言葉にして遮ると、
  今度は言葉の行為を再び実行に移す。
  

  今度は長めに、瞳を閉じて。







    崇は、キスが下手。






  何度も何度も角度を変えてやっても、上手く息が吸えない。
  それは何度同じことをしても同じで、一向に上手くはならない。
 「…っは、はぁ、はぁ…」
 「崇、苦しい?」
  目に薄く涙を浮かべてコクリと頷く姿がとても可愛らしくて、
  目頭にチュと音を立ててキスをした。
  すると微かに肩を揺らす。
  次には額に、次は耳に、頬に、首筋に。






    何度も、何度も。








 「…っ、光邦」
  我慢していた息を長く吐いて、崇は静止の意を込めて名前を呼んだ。
 「…道場だ、やめよう」
 「……うん、そうだね」
  光邦がやんわり笑ってやると、崇もやんわりと笑みで返す。
 












 「大好きだよ、崇」

 「ああ、…俺も」




  はにかんで言うと、今度は崇から光邦の頬に軽く唇を寄せた。
 「…これで、ここでは最後だ」






    珍しい君からのキス。





 「へへ、ありがと」
  そうして、稽古は再開されていった。
  ほかほかした空気の中で。










  いつもそうして、僕に甘い君。
  いつもそうして、僕をシアワセにする君。





  でも、 
  まだ僕は満たされないよ?





  そう言ったら、どんな顔をするんだろうね。
   




 
   END...





モリさんはちゃんと時と場合を考えていそう。そして絶対キスは下手だと思う。