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どこへ行けば あなたは…… けたたましい目覚まし時計たちの騒音で目が覚める。 絶対に早起きしたい日にこうして大量の目覚まし時計を用意するのは悟の習慣だった。 寝ぼけた頭で一つ一つそれらを止めていくと 「…よしっ」 頭はしっかり覚醒を果たす。 最後の一つが鳴くのをやめると窓の傍へ移動する。 するとそこはまだ薄暗く、寒そうだ。 まだまだ日中が暑くとも向かうは秋、そして冬。 朝と夜はなかなかの冷え込みよう、この日も無論例外ではない。 「…あんな薄着で」 薄手のTシャツとランニング用の長いズボン。 悟は見慣れた姿に溜め息を漏らすと、自分も支度に取り掛かった。 基本的に銛之塚の朝は早い。 悟自体も別に朝が弱いわけではない。 平日であっても五時半には起床し、兄の崇と共に朝稽古に励む。 ただ 休日の崇の朝がそれを上回ってしまうだけだ。 「おはようございます、崇兄」 「…悟」 休日ぐらいゆっくり眠れば良いのに、そう思う悟とは裏腹に 休日だからこそ稽古に励むために崇の朝は早くなる。 それに付いてゆくためのあの目覚まし時計なのだ。 「…早いな」 「……崇兄だけには言われたくないですよ」 崇の足のリズムは少し速度を落として悟を受け入れる。 そしてさらりと言いのける兄に尊敬を通り越し、なんとも言えない気持ちになった。 さらに 「無理して起きなくてもいいんだぞ?」 「うっ」 自分の密かな努力をあっさり見破られてしまった。 「いいんですっ!俺は崇兄のようになりたいんです!」 「…悟は悟のままがいいのに」 ぽんぽんっとあやすように頭に手を置かれる。 「っ!でも、俺だって強くなりたいんです!」 「…そうか」 速度を上げて崇を追い抜くと、そのままの距離を保つ。 追いつかれてはいけない。 こんな情けなく赤く染まる顔なんて見せたくない。 何せ、気が付いていないのだから。 何も。 崇と共に朝稽古のメニューを一通り終えると当たりは少し明るくなって 暖かくもなっていた。 「っはぁ…はぁ…」 上がる息が抑えきれない。 悟は縁側に腰を下ろすと大の字になる。 「悟」 「うわぁっ!」 呼ばれた名前に反応する前に感じた冷たさに驚いてしまった。 「すまない」そう改めて差し出されたスポーツ飲料を受け取るとそれは少し減っていて "崇兄の飲みかけかなぁ"なんて頭の端で思う。 「ありがとうございます」 それに口を付けると、火照っている身体にまた別の熱が軽く芽生えたり? 「崇兄って今日は家にいるんですか?」 そんな想いを隠したくて聞いてしまった内容に後悔する。 そんなこと決まりきっていることだから。 どうせ。 「今日は光邦と出掛ける予定だが?」 「…ですよね」 さも当たり前のように答えられる。 それは相手の中では当たり前のことだから仕方ない。 けど、 傷つく自分がここにいたりする。 追いかけても、 「…それがどうかしたのか?」 明らかな落ち込みを見せた悟に崇が覗き込んで聞くと 苦笑いしか浮かばなかった。 追いかけても 「いえ、流石です!いかなるときも主と共に!崇兄、光邦さん大好きですものね」 声はできるだけ明るく、顔もいつもの俺で。 離れて 「…ああ」 そう短い答えの中の暖かさ。 その暖かさに自分で気付いて照れたように、恥ずかしそうに でも幸せそうに笑う。 でも その姿がとても愛しくて。 悔しくて。 「悟は出掛けるのか?」 「特には…」 苦しそうに言う悟に崇は小首を傾げ「そうか」と答えた。 「…楽しんできてくださいね、崇兄」 精一杯、苦し紛れのエール。 俺の顔はちゃんと笑っていますか? 「…ああ」 何も知らない兄は罪深い彼らしい笑みで微笑んだ。 追いかけても、追いかけても 先はどこにもないんだろうか? どこまで行けば あなたは俺を見てくれますか? END... 悟→兄です。憧れからの発展。でも眼中に入れてもらえない(もちろん無意識)。 もてる受けは辛いよ。 |